2020年4月29日水曜日

はじめにCOVID-19感染症に対する漢方治療の考え方 金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子 まだ抗生物質もワクチンもなかった時代、日本の伝統医学である漢方医学の主要な対象は感染症でした。しかし漢方薬が重篤な感染症にも有効であるという事実は広くは知られていないと思います。漢方医学の専門家という立場から私見を言えば、漢方の現代医学とは異なった感染症へのアプローチは、今日でも役立ちます。しかし筆者は、このCOVID-19のパンデミックへの漢方医学の貢献の可能性に関して積極的に発言するのを避けてきました。なぜなら、エビデンスが確立していないからです。また、中国と日本では、気候や体質が異なるため、異なった病態を示す可能性も多くあり、本来は漢方医学診断から処方を決めた方が効果が高いと推察されるからです。しかし、数多くの呼吸器内科医や救急医の友人たちから、「患者さんに役立つならば是非効果のありそうな処方を知りたい」という要望があり、現状で分かっていることで、漢方が役立つ可能性を伝えるという視点から、主に中国の診療ガイドライン1)を参考に、現在までに分かっている漢方医学的・中医学的な知見を簡潔にまとめました。しかし、日本の漢方医学にはいくつか中医学と異なる点があります。臨床的にみて最も大きな違いは、中国では生薬を組み合わせて煎じ薬を新たに創るのに対し、日本では保険診療で認可された、固定した処方のエキス製剤を使うことが多いことです。そのため、中国からの報告を日本での保険診療に役立てるには、中国の中医学的指針の単なる翻訳ではなく、適切な補説を伴った翻訳が必要と感じました。 実際の臨床に役立ち、重症化の防止や、重症化した患者さんの早期回復に役立てれば幸甚です。 また、記載内容について不十分な点もあるかと思います。ご意見がありましたら、是非ご連絡いただければと思います。 COVID-19に対する中医学処方(漢方薬)の状況と推奨 1.予防(無症状病原体保有者) これは、中医からの報告には記載されていませんが、予防は肝心です。手洗い、うがい、不要不急の外出を避けることももちろん重要ですが、漢方薬には免疫力を上げる働きも報告されています。このような働きを持つ漢方薬を補剤と言って、免疫システムを活性化します。無症状病原体保有者の病原体陰性化の促進も期待できます。 補中益気湯 動物実験より、補中益気湯はインターフェロン自体の産生を抑制すると報告されています2)。 十全大補湯 我々のヒト対象の研究では、十全大補湯服用によってNK細胞機能が改善されることが分かっています。また、抑制系も活性化されることから、過剰な炎症の予防も予想されます3)。 2.清肺排毒湯(軽症、中等症、重症患者)1) 幅広い病態に用いることができます。中国からの最新のエビデンスについては後述します。 清肺排毒湯は、漢代の張仲景が著した『傷寒雑病論』にある、寒湿邪によって引き起こされる外感熱病=感染症に対する処方である、麻杏甘石湯、射干麻黄湯、小柴胡湯、五苓散を組み合わせたものが基本とされています。 基礎方剤:麻黄9g、炙甘草6g、杏仁9g、生石膏15~30g(先煎)、桂枝9g、澤瀉9g、猪苓9g、白朮9g、茯苓15g、柴胡16g、黄芩6g、姜半夏9g、生姜9g、紫菀9g、冬花9g、射干9g、細辛6g、山薬12g、枳実6g、陳皮6g、藿香9g。 特別寄稿 COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方 金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子

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